細胞分裂に伴い、遺伝情報を運ぶ染色体(DNA)が複製されて倍加し、娘細胞に均等に分配されることはよく知られています。このときに染色体を 2 方向に引っ張っているのが、微小管とよばれる繊維状の構造体であり、この微小管形成の中心として働くのが中心体です。この中心体の数や機能に異常が生じると、染色体を適切に分配できず、ゲノム不安定化に起因する癌などの疾患に繋がることが知られています。
中心体の構造はその核として機能する2つの母・娘中心小体とそれを取り囲む中心体マトリクス(PCM)から構成されています。細胞分裂前に母中心小体から娘中心小体が複製されますが、形成されたばかりの娘中心小体は細胞分裂の間、母中心小体に近接して存在します。しかしながら、細胞分裂時における母・娘中心小体ペアの結合メカニズムについては未知な部分が多く残っていました。
今回、東京大学大学院薬学系研究科/国立遺伝学研究所の北川大樹教授、渡辺紘己研究員、高尾大輔助教、伊藤慶(学部四年生)らのグループは、帝京平成大学の高橋美樹子教授と共同で、母・娘中心小体間の結合とゲノム安定性維持に必須な中心体因子複合体(Cep57-PCNT複合体)を発見しました。Cep57、PCNTはそれぞれ多彩異数性モザイク(MVA)症候群とMOPDⅡと呼ばれる難病の原因遺伝子として知られていましたが、その発症メカニズムは長らく不明なままでした。Cep57-PCNT複合体に異常が生じると、分裂期前期に母・娘中心小体が早期に分離してしまい、適切な紡錘体が形成されないために、染色体分配異常が高頻度に誘発されることを明らかにしました。さらに、両疾患の患者由来の細胞や遺伝子変異体を用いた詳細な解析から、母・娘中心小体間の結合異常が両疾患の発症原因であることを明らかにしました。
本研究成果は、MVA症候群および、MOPDⅡの予防や治療のみならず、中心体の異常に起因する様々な病気の原因解明に役立つことが期待されます。
本研究は、日本学術振興会 特別研究員奨励費、科学研究費補助金・若手(A)、武田科学振興財団、持田記念医学薬学振興財団、第一三共生命科学研究振興財団、上原記念生命科学財団の支援により行われました